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カタリーナ

***ブラジルでは普通の家庭でもファシネイラと言って週に一度か二度、家を掃除にくる人がいる。ファヴェーラ(貧民街)に住むファシネイラのカタリーナを通じて私は、自分のすぐ近くに全く別のブラジルがあることを知った。***

カタリーナは一週間に一度、家の掃除をしにきてくれていた女性の名。初めて来た日に、名前と住所と身分証明所の番号を紙に書いてもらった。共働きの私たちが働きに出かけている間、彼女は一人で私の家の中にいる。だから、どこに住んでいるかくらいは知っておくべきだったし、用心のために貴重品は鍵のかかる場所にしまったり、ドアに鍵を2つ付けて、彼女の来る日は1つだけ、他の日は2つ錠を掛けるなどしていた。

でも、時間がたつにつれ、カタリーナがとても真面目で正直な人間であるということが分かった。それどころか、私なんかよりもずっと立派な人間だということが。

カタリーナには息子が一人いた。自分の住んでいるファヴェーラでは目障りにされていて危ないと言って、別の所に住ませていた。そして、食事が心配だと言って、毎日お弁当を作って届けていた。一度彼女に紹介された彼は、目のきれいな、感じの良い青年だった。どこかの会社のガードマンをしているとか言っていた。

でもカタリーナは一人住まいをしているわけではなかった。自分の生活でも精いっぱいのくせに、親戚の子ども達を「親が無責任でちゃんとみないんですよ。」等と言って、勝手に引き取って育てていた。そしてその子たちの学校のこととか、頭を悩ませながら世話をしていた。子ども達を養うために、あちこちの家を掃除して回るほか、空缶を集めて売ったり、週末も夜中まで映画館の掃除をしたりして。「母も子どもがとても好きだったんです。私も運命でしょう。」等と言いながら。いつも、とても丁寧な彼女の言葉づかいに私は感心していた。4年間、いっぺんも休むことなく、文句一つ言わずにカタリーナは働いていた。

豚とか鶏を飼っていると言うので、「大きな家なのね」と言うと、「庭ではなくて、路で飼っている」と説明してくれた。小指の一片が無いので「不具者」として国から保険をもらっているという。電気代は払ったことがない。これっぽちの悪意もなく、ごく普通のことのように話す。

要らないものをあげると何でも喜んで持って帰った。自分で使えないものでも、必要とする人をたくさん知っているという。重くても量が多くても、全部いっぺんに持ってかえった。こちらの気が変わると困ると思っていたのだろうか?

カタリーナは47歳という若さで逝ってしまった。ファヴェーラに住む彼女の家にやっと付いた電話は、彼女の病気と死を告げた。

「たいへんだから誰か雇えよ。」と主人は言った。でも代わりの人間なんているわけないじゃない?ここに住んでいる限り、「代わりの人」を探す気にはなれない...。

2002年11月、リオデジャネイロにて。

ルシア 美禰 山本 (Lucia Mine Yamamoto) :在ブラジル

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