時津風理事長 移民に理解示す
笠戸丸移民に贈り物−中川トミさんに写真集
【提供:ニッケイ新聞東京都墨田区=大浦玄記者】
時津風勝男日本相撲協会理事長が、笠戸丸移民の中川トミさんに相僕の写真集と横綱2人の色紙を贈るようにニッケイ新聞に託した。託されたのは、写真集『大相撲』と柏戸剛第47代横綱、大鵬幸喜第48代横綱の手形の入った色紙。理事長は先月末、両国国技館内にある日本相撲協会広報部でインタビューにこたえ、1990年の大相撲ブラジル公演の思い出、家族制度によって支えられている相撲の話など、多岐にわたって相撲談義に花を咲かせた。
家族制度が支える相撲
時津風理事長はサンパウロで公演された大相撲の話になると、車椅子で大相撲を見にきてくれた中川トミさんのことを真っ先に思い出し、篠山紀信撮影の写真集『大相撲』を中川さんに届けるよう本紙に依頼した。「ブラジルの移民の皆さんは、言葉で言い表せないような苦労をされている」と移民への理解と同情を示した。理事長の机の上に、2人の横綱の色紙があった。大相撲の黄金時代ともいわれる柏鵬(はくほう)時代を築いた柏戸と大鵬のものだ。「家で片付けていたら、この色紙が出てきた。相撲博物館に寄贈しようと思ってけさ家から持ってきた」という。理事長は、「これも中川さんに上げてください」と、あっさり記者に託した。決して雄弁とは言えない理事長だが、こうしたちょっとした行為から移民に対する時津風親方の深い思いが伝わってくる。
時津風理事長は新潟県の農家の出身。東京農大の出身で現役時代は豊山。時津風部屋の親方でもある。理事長は「農業と相撲は深い関係がある」と説明した。相撲は五穀豊饒(ほうじょう)を願って行われる。「日本民族はもともと体が小さい。最近、大型の力士が増えているが、大きいことが必ずしも強さにつながるとは限らない。マイナスに作用することもある」と、力士の大型化傾向に疑問を投げかけていた。外国人力士については、「現代の日本は少子化が進み家族が少なく、むしろ外国の家族の方が昔の日本に近いのではないか。外国人力土は親、兄弟を助けるために相撲を取っている。ブラジルの国東も気持ちがしっかりしている」と評価した。
相撲を取るには、家族の支持支援が必要だ。だから相撲社会は「家族制度」を取り入れている。言ってみれば相撲協会が学校で、54ある部屋が教室の役割を果たしている。各部屋はそれぞれ独自性を保っており、部屋によって教え方が違っている。「相撲は家族のきずなが大事だ。この話になると、昭和33年に横綱になった若乃花の例がよく上げられる。若乃花は青森県の生まれで、10人兄弟だった。
90年の大相撲ブラジル公演で、時津風理事長は笠戸丸移民をテーマにした相撲甚句を作詞した。この甚句をイビラフエラ公園内にある開拓先没者慰霊碑前で披露した。理事長は「戦没ではなく先に没したという意味で先没と書くのですね」移民は大変だったと思う。ブラジルの日系人力士も頑張っている。わたしが庭いじりをしていると、日系人たちは率先して手伝ってくれる」と、ブラジル日系人への親しみを見せた。「西村一喜さん、水本光任さん、みんな亡くなってしまいましたね」と寂しそうに顔を曇らせた。
90年にブラジリアでは、コロル大統領と会った。「大統領が、何度も仕切り直しをする相撲と、次々と出されては消えていくブラジルの経済政策はよく似ているといっていたのを思い出す」と、大統領府での会談を振り返りっていた。