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Foto: Ricardo Stuckert/PR

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2007年3月16日

 
ブッシュのブラジル訪問とエタノール


電撃的な2日間のブラジル訪問

 アメリカのブッシュ大統領は、中南米5カ国訪問の最初の国であるブラジルに、予定通り3月8日と9日に滞在した(サンパウロ市だけ)。ブラジルのマスコミは電撃的なとの表現を使っていたが、まさにその通りであった。まず随行員の数であるが、ブッシュの護衛に300人のボディーガードが付添い、その総数は1千人に及ぶと言われていた。さらに食事や飲物や果ては調印に使用するペンまで本国から持ち込み、ブラジル側からの警備や食料の提供を一切断わっている。

 両日のブッシュの訪問予定地までのサンパウロ市の一般の交通は、ブッシュと随行員が移動する時間帯だけはすべて遮断された。そのため折からの集中豪雨と重なり、市内の中心街は長時間の渋滞が起こり、マイカー族のブッシュに対する恨みを買っていた。

 ブッシュ訪問に対する抗議デモは、いたるところで起きていたが、最も激しかったのはサンパウロ市のビジネス中心街のパウリスタ大通りで行なわれたものである。デモ隊が許可地域をはみ出し、それを阻止しようとした警官側が数十人も負傷している。しかしその数はデモ隊側で1万5千人、警察側では5,000人程度であり、懸念されていたほど大規模のものではなかった。

 国会ではPSOL党(PT党の過激派が分裂して創設した党)と、PCdoB党(共産党)の議員たちが“ブッシュ歓迎せず”の旗印を掲げ、PT党の下院議長から早速取り下げるよう、注意されたエピソードもあった。しかしデモ隊も含め左翼政党関係の、対ブッシュ抗議デモはいたるところで発生していたが、それほど強力なものではなかった。


ブッシュの訪問の目的はエタノールの共同開発

 ブッシュが今回のブラジル訪問により、ルーラと取り交わした協定は、中南米の熱帯および亜熱帯圏の国々のエタノールの生産と、新しい世代のバイオ燃料の開発を支援して、燃料アルコール、主としてエタノールのグローバル市場の創設を奨励することである。すなわち砂糖黍からすでにエタノールを生産して、自動車の燃料に使用しているブラジルの技術を利用して、ブラジルが中南米のエタノールの生産を支援するものである。

 ブッシュは今後10年間で、すなわち2017年までに、現在の石油の消費量を20%削減して、代替燃料としてのエタノールにする計画を立てている。アメリカは現在エタノールをとうもろこしから生産しているが、それだけでは供給ができないため、中南米とくにカリブ海諸国からのエタノールを輸入して賄おうとする計画である。

 アメリカは現在ブラジルからのエタノールに対し、2.5%の輸入税の外にガロン当たり0.54ドルの法外な課徴金を課して輸入をほぼ制限している(中米とカリブ海諸国にはこの課徴金は課されていない)。ルーラはこの課徴金を外せとブッシュに要求しているが、ブッシュは2009年までは絶対に外せないと言っている。理由はブラジルからのコストの安いエタノールがアメリカに輸入されれば、とうもろこしから作られるエタノールが壊滅状態になることであり、とうもろこしの生産者を保護しているブッシュとしては、当然できないことである。

 こうしたブッシュの一方的な要求に対して、ブラジル側の一部の人たちは、ブラジルからのアメリカ向けの輸出ができない以上、今回のブッシュとの協定はブラジルのためにならないと反対している。しかしエタノールの国際商品として大きな市場が形成されることであり、ブラジル産のエタノールが日本やヨーロッパ連合に供給できる大きなチャンスを作ることでもあり、ルーラを初めとしてブラジルの産業界はブッシュとの協定を大歓迎している。


戦後のコーヒーのようなエタノールの時代がくるのか?

 専門家の話によると、アメリカが10年間で石油の消費を20%削減すると言っているが、その代替をするのは現時点では技術的に見ても100%のアルコール、すなわちエタノールである。アメリカが石油をエタノールに切り替えた場合、年間で1億3,000万キロリットルのエタノールが必要であると言われている。

 今年のアメリカのエタノールの生産は1,800万キロリットルであり、ブラジルの生産量もほぼそれと同じ程度の1,790万キロリットルである。その外にアメリカとブラジル以外の全世界の生産量が1,500万キロリットル程度あり、現時点の世界のエタノールの生産量は5,090万キロリットルである。したがってアメリカのエタノールの需要を満たすためだけで、現在の生産量のほぼ2.5倍のエタノールが必要である(ちなみに日本がガソリンに3%のエタノールを混入した場合は、年間で180万キロリットルのエタノールが必要である)。

 しかしとうもろこしから作るアメリカのエタノールの生産は、これ以上のとうもろこしの作付面積が増やせない以上、すでに限界にきている。ブラジルの場合はまだ砂糖黍の栽培面積を増やして、エタノールの増産をすることは可能であるが、10年間でせいぜい現在の倍にする程度である。そのためブッシュが考えたのは、中米とカリブ海諸国のエタノールの生産の増強であり、この地域の国の経済発展を奨励することである。

 ブッシュはそのための技術力を持っているブラジルを利用して、カリブ海諸国のエタノールの生産増強をしようとしており、そのためのお金も出すと言っている。

 ブラジルとしてもアメリカと協力することにより、将来的にはグローバル的な安定した需要に対応することができ、現在進んでいるエタノールの増産体制をさらに推進することが可能となる。したがってこの計画が旨く行けば、60年ほど前の戦後にブラジルで起きたコーヒーのような、エタノールのブームが到来することもあり得る。


狂気の沙汰のチャベスの行動

 ベネズエラのチャベスは、3月9日のブッシュのウルグアイ訪問に合わせて、アルゼンチンのブエノスアイレスのサッカー場を借り切り、自前で2万人の観衆を集めて反米演説をしている。続いてボリビアを訪れ、同国のアマゾン地域の洪水の見舞金として、ブッシュが150万ドルを出したのに対して、10倍の1,500万ドルを提供しており、被害者の救済用のヘリコプターの貸与も申し出ている。さらにニカラグアに寄って、同国に25億ドルの精油所を建設することを約束している。

 ブッシュのブラジルを初めとする南米訪問と時期を合わせて、自分の影響下にある国々を訪問して反米反ブッシュ運動をして、それぞれの国で大判振舞いをしている。しかしそれに対する見返りは何もなく、ブッシュにとってはチャベスの行動は、痛くも痒くもないことである。したがってこのチャベスの行動は自分の反米感情を、大金を使用して発散させているとしか思えない。それはもはや狂気の沙汰の行動であるとしか言いようがない。

 結局今回のブッシュの南米訪問は、まだ結論を出すには早いが、ブラジルを含めて親米路線を採用した国と、反米路線を選んだ国とが、明暗を分けて行くような気がしている。したがってルーラは今回は良い選択をしたようである。(在サンパウロ 高木登)

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